誰にも信じてもらえなかった──アニメから始まった、私の日本就職~中国出身・菊さんの12年間の挑戦~

菊 愛莉

菊 愛莉 中国出身 │ 38歳 │ 女性 │ 在日12年目

前職 外資系企業 プロダクトマネージャー
内定企業 マーケティングディレクター
好きな日本語 生きがい

中国に住んでいる時、「日本での留学経験がないのに就職ができるわけがない」と誰にも信じてもらえなかった、菊 愛莉さんが、日本での就職チャンスをつかみ、日本でのキャリア形成してきた秘訣についてお聞きしました。

アニメが開いた扉、日本語との出会い

日本に興味を持ったきっかけは「アニメ」です。勉強は好きな方ではありませんでしたが、大学で日本語を選択する際に、「日本語を選択すれば、日本のアニメを見ていても”日本語の勉強だ”と言い訳ができるし、もっとアニメが見れる!」って思ったのが最初のきっかけです。

大学時代には、日本人の友達もできました。その頃は「日本人=お金持ち」というイメージがありました。当時は、今よりも日本の円は高く、中国との経済格も大きかった為、食事を食べに行った際に、日本の友達が「安いね〜」と、言っていて、「日本人はお金もちでいいなぁ~」と思っていました。また、日本人の方に上海を案内するというアルバイトもやっていましたが、数時間ほどガイドをするだけで1万円ほどいただくことができました。当時は、スターバックスのアルバイトで時給で時給が約100〜200円でしたので、やはり「日本人はお金持ちでいいなぁ〜」と思っていました。

日本留学に憧れはありましたが、経済的に実現が難しい状況でしたので、卒業後は日系企業に就職をしました。ディスプレイ関連用品や製図のソフトウェアを扱う会社でした。小さい会社でしたが、入社して半年後に、日本に出張するチャンスを得て、東京と大阪に約3週間くらい滞在しました。ちょうど桜の時期だったので、アニメで見ていた桜が目の前にあることに感動しました。そして、その時、はじめて桜がすぐに散ってしまう事も知りました。

出張中は、日本の物価の高さにも驚きました。私は中国での給料をもらいながら日本に滞在していましたので、水を一本買う事も高く感じました。コンビニエンスストアで働いている人をみて「この人たちは、私の3倍以上稼いでるんだ…」と思うと、すごくうらやましかったです。そして「日本で働きたい!」と強く思うようになりました。

 

中国から日本就職へ~誰にも信じてもらえなかった挑戦

日本の出張から帰って、日本での就職活動に集中するために数か月後に仕事を辞めました。仕事をしながらでも良かったのですが、とにかく日本就職のことしか考えたくない状況でした。正直に言うと「3ヶ月くらいで仕事が見つかるだろう」と楽観視していたのですが、そんなに甘くなく、半年ぐらいかかりました。周囲からは「日本に知り合いもいないし、日本に出張で行っただけなのに、簡単に仕事が見つかるわけがない」と言われるなど、誰にも信じてもらえず、悔しい思いもしました。

就職活動方法は、まずは中国にある日系の人材紹介会社に相談をしました。
そこで紹介される仕事は中国国内の求人ばかりで「中国はこれから伸びますよ!将来性がありますよ!」と説得されましたが、私は“10年後の将来”じゃなくて“今”日本で働きたいんです!と断っていました。

他にも、インターネットで「日本 求人 中国語」などのキーワードで検索して、日本での求人情報を探しました。東京だけでなく地方の会社にも直接連絡するなど、100社くらいは連絡・応募をしたと思います。とにかく、どこでもなんでも良いから日本での就職のチャンスをつかもうと必死でした。

最終的に、人材紹介会社を通じて1社だけ求人を紹介してもらい、応募をしました。無事に書類選考が通って、面接まで進み、ついに採用をしてもらうことができました。しかし、入社準備をしている2011年に、日本で東日本大震災が発生し、一時待機をするなど不安な時期はありましたが、半年後に無事、日本に渡航することができました。


夢が叶った日本就職、恵まれた環境での第一歩

日本で初めて働いた会社は、エネルギー関係の会社で将来的に中国にも事業展開を予定している会社でした。上場している大手企業が出資していたプロジェクトで、日本の初任給以上の給与で、住む場所も会社が提供してくれました。当時、12万円くらいの賃貸マンションでしたが、家賃はすべて会社が負担してくれていました。また、日本に来る前に、インターンのような形で3週間ほど働いたのですが、その期間もしっかり給与の支払いをしてもらうことができ、私は3週間研修だけで、当時の上海での3ヶ月分の給料をいただくことができるなど、本当に手厚い待遇を受けることができました。

上司や同僚も、バリバリと仕事ができる優秀な方たちでした。特に、コンサルティング会社のボストンコンサルティンググループ出身の方からは、今のキャリアにつながる刺激を受け、データ分析や市場調査などのノウハウを教えてもらいました。また、仕事を通して、日本の様々な地域にも出張することができて、おいしい食べ物や美しい風景を堪能するなど日本文化をより深く知ることができました。日本での初就職は、本当に恵まれたスタートでしたが、残念ながらプロジェクトが終了し、転職をしました。

菊さん

 

一転、地獄の1年~過労とプレッシャーに耐えた日々

2社目は外資系のマーケティング企業に海外リサーチャーとして転職をしました。名だたる大手のB2C企業が顧客で、グローバルでの定性・定量調査のプロジェクトをマネジメントしました。複数の国で実施される調査の設計からレポートを作成したり、競合分析や環境分析を行い、国内外での販売戦略などを提案するコンサルティングも担当しました。

ただ、仕事環境は1社目の恵まれた環境から一転しました。新人だからといってアウトプットの質が低くて許されるわけではありませんので、土日も関係なく働かなくては成り立たない状況でした。上司も日本の昔ながらのスタイルで、私がいないところでは、仕事ぶりをよく褒めてくださっていたようですが、私の前では厳しく対応されました。また、異業種での転職だったため、給料が下がってしまい、手取りは10万円と少しで生活が苦しく、徹夜で働いてそのまま出張にいくなど寝不足が続きました。お金も体力もギリギリで、言葉でしか知らなかった「過労死」がリアルに感じられたぐらいです。今、考えるとこの時が人生で一番つらい時期で、思い出しただけで泣けてきますが、その1年で、私のビジネススキルは大きく成長したと思います。

 

転職で広がった世界~グローバルチームでの新たな挑戦

次に転職したのが、ゲーム・ECサイトを開発・運営する大手ベンチャー企業でした。ここでは前職のマーケティングの経験が評価され、年収が倍になりました。

この会社では、プロジェクトマネージャーとして複数のプロジェクトを担当しました。Google AnalyticsやAdobe analyticsでウェブサイトやアプリユーザーデータ分析してサイトの改善をしたり、新規ユーザー獲得のためにSNSのキャンぺーンを実施したり、新規サービスにおいては、マーケティングリサーチの企画から調査報告などを行いました。

その後、もっとグローバルな領域で仕事がしたいと思い、社内異動のチャンスを得て日本のアニメを海外に紹介する交流サイトの広告運用マネージャーになりました。広告収入を増やすためのデータ分析、KPI設計、コンテンツ改善及びサイトUIUX改善策など新しいデジタルマーケティング戦略に関する企画をしたり、広告主のニーズに合わせて広告のクリエイティブから掲載期間、KPI設計などを提案しました。

この部署は、社内でも最もグローバルなチームで、ドイツやオーストラリアなど海外出身者が多く、日本語と英語の半々でコミュニケーションをとっていました。大学以降は日本語を勉強してきましたが、社会人になってからは「やはり英語は必要だ」と痛感し、プライベートでも海外の友達をつくり、英会話をしていましたので、英語での環境もすぐに馴染むことができました。

その後も、マーケティングやプロダクトのマネジメントをする仕事を担当し、日本のみならず、中国市場やアジアパシフィックにサービスを展開するためのデジタルマーケティング戦略に挑戦しました。もっと新しい知識を得たくてMBAの学校にも通っていたこともありますが、1つのことを長くやり続けるというよりは、とにかく新しいことにチャレンジができる仕事・環境が私には合っていると思います。

菊さん

 

海を越えて~ドイツでの新たな挑戦

現在は、マーケティング専門のフリーランスとして活動しており、1年の半分が日本、残りの半分は海外で過ごしています。最近はドイツ語を学ぶためにドイツに滞在しています。

ドイツは、中国や日本とちがった魅力が沢山あり、刺激を受けています。 特に、何かを修理してもらうなど人間を介するサービスについてはびっくりするような金額がかかるため、DIYなど、なんでも自分でやってしまう人が多い事に驚きました。そんな私も、YouTubeで木材加工の勉強をしたり、ドイツでは手にはいらない長芋などの野菜を栽培しようとしたり、仕事とは違う新たなチャレンジをしています。

また、最近は自分のウェブサイトを立ち上げ、動画制作を独学で学び始めました。現在は中国のSNS(小紅書Bilibiliなど)で動画を投稿しており、将来的には日本語や英語のチャンネルも開設したいとおもいます。

今後の夢は、世界中を旅しながら、場所にとらわれずに働くこと、挑戦することです。好きな日本語は「生きがい」です。まさに今、自分の“生きがい”を見つけながら、人生を楽しみたいと思います。

 

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